e復旧・復興めざす被災地
- 2017.08.07
- 情勢/社会
公明新聞:2017年8月5日(土)付
九州北部豪雨1カ月
「九州北部豪雨」から1カ月。被災地では復旧・復興への歩みが着実に進む一方で、住まいの確保や仕事の再開、減少した観光客の回復など、課題も山積している。甚大な被害を受けた福岡、大分両県で生活再建を願う被災者や、観光振興を誓う事業者の姿を紹介する。
住まい 「一日も早く、戻りたい」
再建か移住か、住民の葛藤続く
「車は土砂に埋まり、荷物も何もかもなくなってしまった」。福岡県朝倉市杷木星丸で被災した田中三代子さん(76)は、今回の豪雨で自宅が被害に遭い、同市来春にある息子の家に身を寄せている。「もう元の家には戻れないが、住み慣れた地域で暮らしたい」と同じ杷木地区の市営住宅に移り住むことを決めた。
今回の豪雨は、住民の暮らしに大きな爪痕を残した。被害を受けた家屋は福岡、大分の両県で2000件を超え、いまだ500人以上が避難生活を続けている。また、家族や知人の家で暮らしている人も多く、被災者は皆、今後の生活に対する不安を抱えている。
大分県日田市大鶴本町の菅英一さん(65)は、自宅が全壊。「また同じ被害に遭うのでは」との思いから、市内の別の場所に移り住むという。
朝倉市杷木松末で暮らしていた稲益秋江さん(72)は、自宅の一部が被害に遭ったが、まだ住める状態だという。しかし、崩落した道路の復旧や土砂の撤去、ライフラインの整備など課題は多く、自宅に戻るめどは立っていない。今月から、民間住宅を借り上げる県の「みなし仮設」で生活をスタートさせる。「一日も早く、家に戻りたい」との思いは募るばかりだが、地域住民の多くは移住を考えており、「集落としてやっていけるのか」という不安もある。
現在、被災地では仮設住宅の建設が進み、みなし仮設の提供も行われているが、「住み慣れた場所に戻りたい」というのが、被災者の本当の思いだろう。住民が元の暮らしに戻れるよう一日も早い復旧・復興が求められている。
仕事 「何から手を付ければ」
土砂流入で遅れる農作業
記録的な豪雨は、被災地の主要な産業である農業にも深刻な被害をもたらしている。
福岡県朝倉市大庭でネギを栽培する男性(76)は、桂川の氾濫で家屋が床上まで浸水。自宅近くのビニールハウスには大量の土砂が流れ込んだ。
自宅1階の畳をすべて外し、台所で寝起きする日々。夜中に目が覚めると、将来への不安から寝付けなくなるという。ネギ栽培の再開にはハウス内の土砂をかき出す必要があるが、自宅の復旧もままならず「何から手を付ければいいか、わからん」と声を落とした。
大分県日田市羽田では、有田川が溢れ、川沿いの水田が軒並み被害に遭った。
後藤均二さん(67)が所有する約20アールの水田には、土砂とともに濁流ではがれた道路のアスファルトが流れ込み、鹿対策の柵も崩れ落ちた。「土の入れ替えも含め、復旧には1年以上かかるだろう」。水田を見つめながら、後藤さんは複雑な胸の内を語った。
今回の豪雨による農業関係の被害額は福岡、大分両県で、それぞれ154億1400万円(7月23日現在)、57億7200万円(同27日現在)に上る。
JA筑前あさくらによると被害を受けた農地以外に、水路が土砂で埋没し、農作物が枯れるのを待つしかない場所もあるという。被害の拡大が懸念される中、先行きが見通せず営農を断念する声も上がっている。
そんな中、今月2日には朝倉市のシンボルである三連水車が復活。日田市でも7月末から特産品の梨の出荷が始まるなど、明るい話題も届き始めた。一日も早い被災農家の再建には、国と自治体の一体的かつ迅速な対応が欠かせない。
観光
風評被害の払しょくに挑む
福岡県朝倉市にある旅館「原鶴温泉 六峰舘」の井上善博代表取締役社長は、観光で街に活気を戻そうと、豪雨による風評被害に立ち向かう。
六峰舘は浸水しなかったが、道路の通行止めなどの影響を受け、客足が激減。旅館協同組合に加盟する全14軒の7月のキャンセル数は1万人を超えたという。夏の風物詩の「鵜飼い」も、土砂の影響で船が出せず、まだ再開は難しい状況だ。
そんな中で、原鶴温泉は温泉の無料開放を実施。被災者やボランティア関係者などが訪れては汗を流し、利用者から「心身ともに癒やされる。本当にありがたい」との声が寄せられている。井上社長は「風評被害で厳しいが、温泉地は観光の拠点。商売で地域を明るくしたい」と語った。
一方、大分県日田市にある日田温泉では、隣接する三隈川への被害はなかったものの、JR久大本線の鉄橋の崩落などが観光客のイメージを悪くし、客足が遠のいているという。「みくまホテル」の諌山吉晴社長は、「日田は元気だと知ってほしい」と語る。
日田では通常通り、観光名物の「屋形船」と「鵜飼い」が運航され、水郷の情緒を味わうことができる。宿泊客は「最初は行くか悩んだが、ゆっくりできて日田に来てよかった」と笑顔で話していた。
両温泉の関係者は、客を呼び込み、観光で復興を進めようと意気込んでいる。