eコラム「北斗七星」

  • 2017.08.15
  • 情勢/社会

公明新聞:2017年8月15日(火)付



<音もなく我より去りし物なれど書きて偲びぬ明日と言ふ字を>。28歳で戦犯刑死した学徒兵・木村久夫が死を目前に読んだ一首だ。彼が残した二通の遺書を紹介する本が3年前の8月発行された◆「真実の『わだつみ』 学徒兵 木村久夫の二通の遺書」(編・著加古陽治、東京新聞)。木村は大学に入学して半年後に召集され出征。インド洋のカーニコバル島で住民を管理する民政部に所属する◆終戦間際の1945年7月、上官から命じられ行った住民に対する取り調べ行為がシンガポールの戦犯裁判で問われる。彼は上級者の将校たちから法廷で真実の陳述をすることを厳禁され、これに従う◆その結果「命令者たる上級将校が懲役、私が死刑という不合理な判決」(木村)が下されることに。「戦争が終了し戦火に死ななかった生命を今ここにおいて失っていくことは惜しみても余りある」彼は、遺書を残した◆そこには「苦情を言うなら、敗戦を判っていながら、この戦を起こした軍部に持っていくより仕方はない。しかし、またさらに考えを致せば、満州事変以後の軍部の行動を許してきた、全日本国民にその遠い責任がある」と◆終戦記念日。先の大戦でいかに多くの若者が理不尽に生命を奪われたことか。忘れてはなるまい。そして平和を守ろう。(六)

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