e「水俣条約」発効
- 2017.08.17
- 情勢/解説
公明新聞:2017年8月17日(木)付
日本が教訓伝えリード
水銀汚染のない世界へ前進
名古屋大学大学院 高村ゆかり教授に聞く
熊本県水俣市などで発生した水俣病を教訓とし、水銀の採掘、使用、廃棄の全過程で規制を設け、環境汚染や健康被害を国際的に防止する「水銀に関する水俣条約」が、16日に発効した。これまで74カ国・地域が締結。新規鉱山での水銀産出を禁止し、既存の鉱山も15年以内に産出できなくするほか、水銀を一定量以上含む蛍光灯などの製造、輸出入を3年後までに原則禁止する。水俣条約の意義や課題について名古屋大学大学院の高村ゆかり教授に聞いた。
――水俣条約の意義は。
高村ゆかり教授 水銀の採掘から、製品などへの使用、輸出入、最後は廃棄に至る各段階で国際的に守るべき最低限のルールを初めて作ったことだ。各国にきちんと対策を促す点で意義がある。
条約交渉の過程で日本は、熊本県や水俣病患者らと共に水俣病の実態を伝え、水銀が及ぼす人の健康や環境への悪影響を各国の代表に訴えた。水銀のリスクについて各国代表の理解が深まり、条約採択に与えた影響は大きい。「水俣病の悲劇を繰り返さない」との決意が条約名に表れている。
――水俣条約発効に向けた日本政府の取り組みは。
高村 条約交渉時から、各国に水銀規制の必要性を訴え、技術的に可能な規制案を提案する日本への信頼は非常に高かったと思う。熊本、水俣の両市での採択に各国から異論が出なかったことからもよく分かる。
また、条約採択後、日本は早期の条約締結に向けて準備を進めた。水銀環境汚染防止法など国内法を整備し、条約が定める以上に厳しい水銀規制の国内対策を盛り込んでいる。
――世界では水銀被害が発生し続けている。
高村 途上国では金を採掘するのに水銀を使用する所がまだある。水俣病と同じような症状で苦しむ人々がおり、ローカルな問題となっている。さらに、石炭火力発電所などから排出される水銀が大気中に拡散するなどして、水銀汚染はグローバルな問題でもあることが分かっている。排出源がない北極でアザラシなどから高い濃度の水銀が測定されている。条約で世界の水銀対策は一定の前進が期待されるが、これから各国で着実に進むかどうかがカギを握る。
――今後の課題は。
高村 できるだけ多くの国、特に途上国が水俣条約を締結し、効果的な水銀対策を実行してもらうことだ。途上国に規制を求めるだけでは解決しないことも多い。
例えば、金採掘は途上国の人々が生計を立てる手段にしているため、先進国が途上国に対し、水銀を使わない代替の技術や代わりの生活手段を提供するなどして、途上国の対策を後押しする必要がある。
日本と世界の水銀対策もまだ課題は多い。長年、環境問題に取り組んできた公明党が、水俣病患者への支援をはじめ、今後も水銀対策をリードしてほしい。