e要介護 改善促すケアを評価

  • 2017.08.24
  • 生活/生活情報
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公明新聞:2017年8月24日(木)付



介護サービスにより高齢者の要介護度や日常生活動作(ADL)が改善した場合、介護事業者に報奨金などを出す自治体が増えている。その一つである川崎市では、市議会公明党の推進により、2016年度から「かわさき健幸福寿プロジェクト」に取り組み、成果を上げている。


川崎市の「健幸福寿プロジェクト」


事業者に報奨金支給 表彰制度などで意欲引き出す


「私たち介護事業者の意識が大きく変わりました」。川崎市で在宅介護などを手掛けるセントケア中原のケアマネジャー・花房善絵さんは、「かわさき健幸福寿プロジェクト」の効果を、こう語る。

プロジェクトは、要介護状態の改善・維持に意欲のある高齢者に対し、介護事業者がチームをつくり1年間、リハビリなどを含むケアを実施。その結果、要介護度やADLの改善・維持に一定の成果があった場合、市がチームの各事業者に報奨金5万円の支給や市長表彰などを行う仕組みだ【イラスト参照】。

介護保険制度では、サービス利用者の要介護度が重くなるに従い、介護事業者に支払われる報酬は高くなる。このため、介護事業者にとっては、質の高い介護サービスで要介護度が改善するほど収益が減ることになる。

プロジェクトは、こうした要介護度の改善・維持に向けた取り組みを評価し、報奨金などでインセンティブ(動機付け)を与えることで、介護事業者の意欲を引き出すのが狙い。16年度から本格的に始まり、同年度は高齢者214人にケアを実施。早速、成果も出ている。

例えば、花房さんがケアマネジャーとして携わった在宅介護の80歳代のAさんは、腰痛のため、ほぼ寝たきり状態の要介護4に認定されていた。Aさんと家族は「これを機に元気になれば」との思いから昨年7月にプロジェクトに参加。家族からの積極的な後押しもあり、Aさんは介護老人保健施設のショートステイなどでリハビリを行った。

その結果、要介護2まで改善。必要だったヘルパーの介助も不要になったという。花房さんは「Aさん本人の意欲や家族の協力のおかげもあり、介護事業者によるリハビリも順調で、改善へつなげることができました」と語る。

市の調査報告によれば、参加した利用者・家族の6割が、「ADLが改善された」などプラスの影響があったと回答。また、介護事業者も約7割が、「職員が『改善』を意識した視点を持つようになった」など肯定的に捉えている。市高齢者事業推進課は「プロジェクトに参加した介護事業者の意識が向上し、利用者の双方にプラスの影響を与えている」と評価する。

同市は、今月25日にプロジェクトの表彰式を開き、セントケア中原も顕著な成果を上げた事例として表彰される予定だ。


岡山市、東京・江戸川区でも保険給付費削減に効果

高齢者の要介護度の改善を後押しする自治体は、他にもある。

例えば、岡山市は14年度から「デイサービス改善インセンティブ事業」を展開中だ。

まず、デイサービス事業者を「外部研修への参加状況」「医療機関との積極的連携」などの五つの指標で評価し、一定の基準を満たした施設を「指標達成事業所」と認定。その上で、各事業所の利用者についてADLの改善状況を評価し、高評価の上位10事業者に対し、10万円程度の奨励金を交付している。

同市医療政策推進課によると、参加事業所と非参加事業所を比較したところ、ADLの改善によって高齢者1人当たり約1万6000円の保険給付費の削減につながったという。

東京都江戸川区は、15年度から特別養護老人ホームなどに対し、入所者の要介護区分が1段階改善した場合、月2万円の奨励交付金を交付する事業を実施。介護事業者からの反応も好評で、「できるだけ長く続けてほしい事業だ」との声が区に寄せられている。

政府も、こうした自治体の動きを受け、6月にまとめた成長戦略「未来投資戦略2017」で、介護の自立支援・重度化防止を柱の一つに据える。18年度の介護報酬改定で「効果のある自立支援について評価を行う」と明記し、今後、議論する方針だ。


利用者の啓発も重要


国際医療福祉大学大学院 竹内孝仁教授


要介護状態の高齢者には、適切なリハビリや訓練をすれば歩けたり、オムツを使わずに暮らせるようになる人は多くいます。しかし、現行の介護報酬において、こうした自立を支援する仕組みとなっていないため、なかなか広がらないのが課題となっています。

川崎市などの自治体で、自立支援に頑張っている事業者にインセンティブを与える取り組みが始まっていますが、状況を変える一歩になると期待したい。

これら自治体の動きを定着させていくには、高齢者本人や家族らの利用者側の意識啓発も重要です。質の高いサービスを提供する介護事業者を選べば、要介護状態から改善する可能性があることを広く知ってもらう必要があるでしょう。

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