e民法の成人年齢引き下げ

  • 2017.08.30
  • 情勢/解説
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公明新聞:2017年8月30日(水)付



論点整理
社会経験の乏しさ どう補うか



18歳成人をどう考えるべきか―8月の内閣改造で法相に就任した上川陽子氏が、18歳成人の民法改正案を臨時国会に提出する意欲を示したことで国民の関心が高まっている。憲法改正の国民投票法の投票権年齢が2018年から18歳になり、公職選挙法の選挙権年齢も昨年から18歳になっている。両法が付則で民法の成人年齢の検討を求めたことから、成人年齢を20歳から18歳に引き下げる改正論議が続いていた。飲酒・喫煙年齢などは20歳が維持される見通しだが、参政権年齢と成人年齢との関係や、社会経験の乏しい18、19歳の若年者に必要な援助は何かなど18歳成人の主な論点を整理した。



18歳成人の意義


将来の国づくりの中心として期待


戦後、公職選挙法(1950年成立)が選挙権年齢を戦前の25歳から20歳に引き下げた。その理由は、民法の成人(民法の条文では成年)年齢が20歳であることだった。

2007年成立の国民投票法が投票権年齢を18歳と定めた時も「民法上の判断能力と、参政権の判断能力とは一致すべきである」との主張があった。また、諸外国でも成人年齢に合わせて18歳以上に選挙権を与える例が非常に多いことから、政治参加と成人年齢の関係が注目された。

その後、18歳成人が実現しないまま公職選挙法が改正され、選挙権年齢は20歳から18歳になった。これは「成年者による普通選挙を保障する」と定めた憲法第15条に反しないかとの議論もあったが、憲法は成人の選挙権を保障しているだけで、未成年に選挙権を与えることを禁じているわけではないとの解釈で学説上も異論がないとされた。

選挙権など参政権の年齢と成人年齢が一致する必要がないのであれば18歳成人にする必要性はどこにあるのか。

法制審議会(法相の諮問機関)は09年の答申で、選挙年齢と成人年齢を一致させることで、より責任を伴った権利行使が期待できるなどと述べ、「特段の弊害のない限り、民法の成年年齢を18歳に引き下げるのが適当」と結論。その上で、「若年者が将来の国づくりの中心であるという国としての強い決意を示すことにつながり、若年者及び社会にとって大きな活力をもたらすことが期待される」と18歳成人の意義を示した。



世論調査から


最近の主な世論調査を見ると、質問が異なるため単純な比較はできないものの、成人年齢引き下げに対する人々の戸惑いが表れている。

13年の内閣府・世論調査では、(1)契約を一人ですることができる年齢を18歳にすることについて賛成18.6%、反対79.4%(2)親権に服する年齢を18歳未満にすることについて賛成26.2%、反対69%―であった。

15年に実施された、18歳成人に関するマスコミによる世論調査の結果は次の通り。

【朝日新聞=3月】

賛成43%、反対44%。

【毎日新聞=7月】

賛成44%、反対46%。

【読売新聞=8~9月】

賛成46%、反対53%。

読売新聞は翌16年3~5月にも同様の世論調査を実施。同年の参院選で初めて選挙権を得る18、19歳を対象にした集計では、賛成35%に対し反対が64%にも上った。主な反対理由は「大人としての自覚を持つとは思えない」だった。



契約の責任とれるか


未成年者取り消し権に代わる新制度が必要


答申が「特段の弊害」が生じる可能性がある事柄としたのは(1)契約年齢(2)親権の対象となる年齢―である。

(1)については、社会的経験の乏しい18、19歳が自己責任で契約を結ぶことは困難で、若年者の消費者被害が拡大するとの懸念がある。(2)については、引きこもりやニートなど自立できない若年者から親権による保護を奪うべきではないとの強い意見がある。

18歳成人になれば、18、19歳の消費者被害が拡大するとの指摘には根拠がある。

国民生活センターの統計(11~15年)では、全国の消費生活センターへの相談数は、毎年、20、21歳からの相談数が18、19歳からの相談数の約1.5倍になっている。

民法第5条により、未成年者が結んだ契約は、親の同意がなければ取り消すことができる。そのため、成人直後の若年者を狙って契約を迫る事業者もいる。それが相談件数の上昇の背景であり、18歳成人になれば、18、19歳が一気に狙われる可能性が高い。

民法第5条の規定は、未成年者取り消し権と呼ばれ、未成年者を狙う悪徳商法に対する抑止力になっている。

18、19歳の多くはまだ学生である。例えば、クラスの友人からマルチ取引(商品を契約し、次は自分が買い手を探し、買い手が増えるごとに利益が入る取引形態)に誘われた場合、その危険性を知らないまま友情を信頼して契約する可能性がある。未成年者なら取り消し権によって被害を回避できるが、成人であれば思いも寄らない借金を抱えることになりかねない。

内閣府の消費者委員会は今年2月、18歳成人に関する報告書を公表し、若年者の消費者被害を防止するための対応策を提示。未成年者取り消し権に代わる新たな「取り消し権」の創設を訴えた。

また消費者教育の徹底に関し、公明党法務部会長の国重徹衆院議員は、弁護士時代にボランティアで学校での消費者教育の講師を務めた経験から「18歳成人を消費者教育拡充の契機にする必要がある。特に、講師の人材育成が重要になる」と強調している。



親権の保護は不要か


自立困難な18、19歳を困窮させない援助も


公明党内の18歳成人の議論では、「親権の問題が及ぶ範囲は広いので緻密な議論が必要」との声が上がった。

親権とは未成年の子を持つ父母に与えられた権利義務の総称で、子に対する監護と教育、子の財産の管理が含まれる。

法制審の答申は、専門家からのヒアリングの結果として、「経済的に自立していない者や社会や他人に無関心な者、さらには親から虐待を受けたことにより健康な精神的成長を遂げられず、自傷他害の傾向がある脆弱な者等が増加」しているため、「自立に向けた様々な援助をする必要がある」と訴えている。

自立が困難な若年者を親権の対象から外すと、親の保護を受けられず、ますます困窮する恐れがある。

そこで答申では、(1)社会の中で多様な関係者と積極的に関わろうとする資質を獲得させるシティズンシップ教育の導入(2)困った時に、1カ所で各種の情報提供や相談が受けられるワンストップ・サービスセンターの設置―などが提案されている。

また、親権から離れた高校生の生活指導の問題もある。高校での生活指導は原則として親権者を介して行われている。それができなくなると、教師が直接、生徒と向き合わざるを得ず指導が困難になるとの意見もある。



公明党の提言


若年者を守る仕組みを整備せよ


公明党「民法・少年法等成年年齢検討プロジェクトチーム」は昨年からの党内論議の成果を提言としてまとめ、今年3月、法相に提出した。

提言は、民法の成人年齢について「18歳に引き下げるのが適当である」と明記。その理由として、「若年者の社会参加の時期を早め、大人としての自覚を高める効果が期待される」「(国民投票法制定の際、わが国の将来を見据えた上で)引き下げることが望ましいという政策の大きな方向性が示された」ことなどを挙げた。

ただし、18歳に引き下げる時期については、若年者の自立を支える仕組み、消費者被害の拡大を抑えるための消費者教育の抜本的強化、未成年者取り消し制度に代わる消費者保護制度の確立、与信審査の厳格化などについて検討を加え、そのような仕組みや施策が「十分に整ってからとするのが妥当である」と強調している。

公明党は、18、19歳の若年者を守るための制度構築に向け検討を進める考えである。

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