e所有者不明の土地 財産権尊重しつつ有効利用を
- 2017.09.25
- 情勢/解説
公明新聞:2017年9月25日(月)付
不動産登記簿などを見ても所有者が直ちに判明しない、判明しても連絡がつかないという所有者不明の土地や建物が増え続け、国民生活にも悪影響が及んでいる。
例えば空き家の場合、管理責任がある所有者が不明になると、老朽化が進み倒壊の危険性が高まったり、害虫の発生による衛生問題、さらに、不審者の侵入による治安の悪化という深刻な被害を周辺住民に与えてしまう。
所有者不明の土地の場合は、緊急を要する防災工事や災害復旧工事で、土地買収の交渉相手である所有者がなかなか見つからず事業が何カ月も滞るといった問題が発生している。
政府は近年、空き家対策などに取り組んできたが、所有者不明の問題に関して、土地法制のあり方にまで踏み込んだ議論をするため、9月から国土交通省の国土審議会・特別部会で検討を開始した。
財産権を尊重しつつ、所有者不明の土地の有効利用に道を開く制度の構築を期待したい。
地籍調査を活用して国土計画協会の研究会が6月に公表した推計によると、宅地の14%、農地の18.5%、林地の25.7%が所有者不明で、所有者不明の土地面積の合計は約410万ヘクタールに相当する。これは九州の土地面積約368万ヘクタールを超えている。
こうした現状は相続登記が義務ではなく任意とされているからで、その結果、戦前から多くの人が何世代にもわたって相続登記を放置し、登記簿上では誰が所有者か追跡困難になっている。
それでも、「土地の値段は上がる」という土地神話が生きていた時代には、不動産は貴重な財産として所有者によってしっかり管理され、売買も進み登記も行われてきた。
しかし、少子高齢化、地方の過疎化、人口減少という時代に入り、相続した不動産の財産価値が見込めず売買も困難なため、手間とコストのかかる相続登記もされないまま放置されている。専門家は今後もこうした傾向は続くとして、対策が急務だと訴えている。
所有者不明の土地でも、公共の目的にかなう場合は利用できる新たな制度の検討が必要な時代になっている。