e東日本大震災6年7カ月 仮設暮らし なお3万7千人

  • 2017.10.23
  • 情勢/解説

公明新聞:2017年10月23日(月)付



踏み出せない再建の一歩
復興は道半ば「忘れないで」「現状を知って」



東日本大震災から6年7カ月が過ぎ、被災地では鉄道や道路などの復旧・復興が順調に進む。だが、今なお避難者は全国に約8万4000人を数え、このうち約3万7000人が仮設住宅(民間賃貸借上住宅など「みなし仮設」も含む)での生活を余儀なくされている。災害救助法に定める仮設暮らしの期限は「2年」。限界をとうに超えた仮住まいの今を、宮城県石巻市の仮設住宅団地から報告する。


■仮設の冬


10月もまだ半ばだというのに風は冷たく、寒空の下にひっそりと建つプレハブ仮設団地の風景にも、はや冬の気配が漂っている。

宮城県の北東部を流れる北上川の下流域、追波川の河川敷にある「仮設追波川多目的団地」(石巻市小船越)。21棟103戸を数える中規模仮設団地だが、今は空き室が目立ち、60戸余りに同市雄勝町の住民百数十人が暮らすばかり。大半はお年寄りだ。

カメラを手に歩いていると、かじかむ手にフーフーと息を吹きかけながら仮設脇の路地で洗濯している老婦人が気さくに声を掛けてきた。「東京から? あっちではもう、仮設に暮らす人はいないと思ってんだろうねぇ」。自嘲気味にそう話し始めた婦人の名は八木まさ子さん、84歳。

仮設追波川多目的団地の近くで進む災害公営住宅の整備。一日も早い完成が待たれている=石巻市自宅が跡形もなく流されたこと、せっかく助かった夫が震災関連死で亡くなったこと、部屋が狭いので孫を泊めてあげられないのが何より辛いこと、そして今年7度目の冬も仮設で越すほかないことや、風化で忘れられていくことへの苛立ちとあきらめ......。あの日からの日々を問わず語りに話し続ける姿は逞しくも見え、寂しくも映る。

ちなみに八木さんらここに暮らす人たちの多くは、数キロ先で整備が進む災害公営住宅にまとまって移る予定。まだ土地の造成段階だが、市によると来年秋には完成する見込みだという。


■続く試練


車でわずか数分。八木さんらの新居となる予定の災害公営住宅の建設地を訪ねると、広大な敷地の一角には既に一部住宅が完成し、人も住み始めている。84人の児童・教職員が犠牲となった大川小学校がある同市大川地区周辺の住民らで、「仮設三反走団地」で仮住まいしてきた人々だ。

この日、間近に迫った引っ越しのため、妻と一緒に新居の下見に訪れていたのは近藤孝悦さん、75歳。ようやく仮設暮らしから解放される喜びを聞かせてもらえると思いきや、「正直なところ、不安の方が大きいよ」と浮かない様子。訳を尋ねると、「仮設は家賃免除だったけれど、これからは毎月2万4000円かかる。年がたてばもっと上がるから、年金暮らしの身で持つかどうか」

なるほど、国は災害公営住宅の低所得世帯向けに家賃補助を行っているが、入居6年目からは段階的に縮小する方針。高齢化率が全国平均を大きく上回る東北の被災3県にあって、災害公営住宅での家賃負担は一人近藤さんだけに限らず頭の痛い問題だ。この日、近藤さんに付き添って来た大川地区復興協議会の高橋照雄副会長が代弁する。

「ここには地域ぐるみで移り住むので、旧来のコミュニティーが維持され、お年寄りたちを見守ることもできる。だが、経済面、生活面の支援は地域の力だけでは限界がある。国の支援継続を求めたい」。さらに語気を強めて、「これは被災地全ての仮設と災害公営住宅に共通する問題。複雑、多様化する被災地の復興の現状を知ってほしい」とも。

思わず仮設団地で八木さんが語っていた言葉が蘇った。「早く災害公営住宅に移って"再建の一歩"を踏み出したいけど、夫を亡くした今、家賃がいらない仮設の方が有り難いかも。試練は終わりそうにないよ」



記者の目


前例なき仮住まいの長期化 復興加速へ「住」の確保急げ


震災後、被災3県に建てられたプレハブ仮設住宅は51市町村に約5万3000戸。これまでに16市町村で全ての仮設の解体、解消が進み、入居者数もピーク時の約3割に当たる約3万7000人(「みなし仮設」入居者含む)にまで減少した。

だが、3県合わせて21の市町村は、仮設に7年を超えて19年3月まで住み続けることになる「特定延長」の対象自治体になることが決定済み。このうち原発事故で全町避難する福島県大熊町など同県内の7市町村や、石巻市など津波被害が甚大だった宮城、岩手両県の市町村は、震災8年以降の特定延長も避けられない状況にある。

例がないほど仮設暮らしが長期化する中、被災地では関連死や孤独死が増え、住民同士の分断や被災地間の格差拡大も深刻化している。この「負のスパイラル」をどう断ち切るか。鍵はやはり暮らしの基本である「終の棲家」の確保だろう。震災7年へ、復興はまさに正念場を迎えていることを強く指摘しておきたい。

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