eコラム「北斗七星」

  • 2017.11.22
  • 情勢/社会

公明新聞:2017年11月22日(水)付



「面白く書かなくてはいけない、そして真実でなくてはいけない、雑誌の方は後者が欠けても前者を求める、此方は反対だ」。先日、没後50年の山本周五郎展で目にした彼の日記にあった◆1938年のきょう、35歳のときに記されたもので、「人間を書くのだ、真実の人間が書ければ『面白さ』は附いて来る」と続く。若き文豪の気迫が伝わってくる◆その、結婚して父となる時代の彼が「余が今生き、書き、大きな何事かを為そうと企てているのは、唯我妻あるが故である」(日記)と吐露している。真実の人間に迫る創作の原動力は、妻の存在だった◆周五郎の短編『青嵐』には、結婚して半月もたたずに、夫のことで人に言えない悩みに苛まれる新妻が描かれている。泣き出す彼女の背をなでながら母は、「人間はみなそれぞれ欠けた弱いところを持っているものです、夫婦というものはその欠けた弱いところを、お互いに援けあい補いあってゆくものです」と諭す◆きょうは「いい夫婦の日」。その2017年度「川柳コンテスト」(「いい夫婦の日」をすすめる会)の優秀賞に<50点 同士でいいさ 足せば100>と。これも真実の姿かと少し肩の力を抜くと、最近NHKのラジオ番組で聞いた「ぼやき川柳」を思い出した。<ぜいたくは 言えぬと妻は 僕選ぶ>。こちらは現実か。(三)

月別アーカイブ

iこのページの先頭へ