eコラム「北斗七星」

  • 2017.12.26
  • 情勢/社会

公明新聞:2017年12月26日(火)付



例えば江戸の下町、隅田川に架かる永代橋での出会いの朝を、「高い橋の上から見おろすと、霧は川上の新大橋のむこうから、はるかな河口のあたりまで、うす綿をのばしたように水面を覆っていた」とつづる◆過去に別れを告げ、夜の永代橋を渡って振り向く主人公には「月明かりに、橋板が白く光って、その先に黒く蹲る町がみえた」と、人の心を映す情景を描く。きょうが生誕90年の藤沢周平の短編集『橋ものがたり』から拾った◆今年発刊された同短編集の愛蔵版には、「人と人が出会う橋、反対に人と人が別れる橋」を書いたとの藤沢の言があった。娘の遠藤展子さんの一文も添えてある。『橋ものがたり』のどこが好きかというと、「人と人とのふれあいや、相手を無条件で『信じる』と言えるその気持ちかもしれません」と語っている◆『橋~』の執筆は1976年から77年にかけて。当時、藤沢は東京都東久留米市で暮らし、展子さんは小学生だった。「門前大橋から平和橋までの河原」が父との散歩コースだったという◆北斗子の故郷も同市で、今も残るその二つの橋を行き来して育った。年の瀬になり、橋の記憶と重なる友との出会いや別れを思い出しながら、年賀状に心を込めた。同じ橋を渡った同級生と交流の機会もある。来る年も無条件の友情を大切にと思う。(三)

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