e赤ちゃんの難聴は治る! 静岡県立総合病院の挑戦(下
- 2017.12.26
- 情勢/テクノロジー
公明新聞:2017年12月26日(火)付
早期発見と療育が両輪
検査費 県内全自治体で助成へ
医療、行政、教育の連携重要
静岡県は、県立総合病院で副院長を務める高木明医師と力を合わせ、新生児聴覚検査と事後対応に関するマニュアルを作成したほか、検査と治療を橋渡しする乳幼児聴覚支援センターを県立総合病院内に設置することなどを進めてきた。さらに今年度は、二つの事業が前進した。
一つは、費用が平均で5000円程度かかる新生児聴覚検査の公費助成だ。県内で助成する市町は昨年度まで一つもなかったが、公明党の盛月寿美県議が昨年9月定例会で強く求めたことが実り、今年度から全35市町(県内に村はない)のうち32市町で公費助成がスタートした。残る3自治体も来年度予算に実施費用を計上する予定。県内に住み、今年出産した片寄広子さんは「無料で受けられることもあり、迷わず受診しました。異常はなく安心しました」と語っていた。
全国で昨年度、検査を受けた新生児は、日本産婦人科医会の調査結果によると87.6%にとどまっている。これに対し、国の調査では、検査費を助成した自治体は全体の約13%に過ぎないという。高木医師は「助成は受診者の経済的負担の軽減とともに、受診者の正確な把握につながる。未受診者の受診促進や難聴児へのきめ細かな支援も可能になる」と助成の必要性を指摘する。
脳の活動を可視化し言語獲得状況をチェックできる機器前進したもう一つの事業は、乳幼児聴覚支援センターの大幅な強化である。特に、脳の活動を可視化し、言語獲得状況をチェックできる機器を導入するとともに、難聴に悩む親子のための教室も開始。早期発見と療育の両輪がつながり、遅滞なく対処する体制づくりを急いでいる。
難聴を巡る日本の現状を見ると、まだまだ発見が遅い上に、療育への理解と施設整備が進んでいない。治療した子が一度は通常の小学校に入ったものの、中学校でろう学校に戻るケースも少なくないのが現状だ。高木医師は「医療、行政、教育の関係者が認識を改め、切れ目のない支援体制の構築に関心を持つべき」と指摘する。
高木医師によると、オーストラリアでは0~26歳までを対象とした難聴支援プログラムに国を挙げて取り組んでいる。新生児の99%が聴覚検査を受診し、難聴児を早期発見。治療後も専門の支援センターで定期的なチェックを受けながら、自身の聴力を最大限に生かした療育を受けられる。その結果、プログラム対象者の95%が普通の高校に入学、77%が有給雇用に就くなど成果を上げているという。
難聴を治すには早期発見と療育が何よりも大切。その体制づくりへ、日本でも国と地方の一日も早い取り組みが求められている。【この連載は中部支局の吉田洋輝が担当しました】