eコラム「北斗七星」

  • 2018.01.23
  • 情勢/社会

公明新聞:2018年1月23日(火)付



入社3年目に福岡の地方新聞社が倒産した。「回り続けてきた輪転機を止めます」。手にした1面社告に、記者たちのうめき声を聞いた。40代の葉室麟さんがいたことを知るのは、20年経ってからだ◆「人生は挫折して始まる」。それが作品の一貫した主題だった。弱者の誇りと地方の視点。常に人生の残り時間を意識した。50代半ばでデビューし、著作は60冊に迫る。直木賞『蜩ノ記』では、10年後の切腹を定められながら、家譜編さんに励む武士の姿を描いた。本紙連載『はだれ雪』で「忠臣蔵外伝」を綴った葉室さんが、昨年12月23日に66歳で逝った◆「明治維新とは」が病床のテーマだった。11月発刊の『大獄 西郷青嵐賦』(文藝春秋)で青年期に光を当て、西郷の強さを浮かび上がらせた◆生涯の師である斉彬との出会い、リーダーとしての度量。それ以上に胸を打つのは、挫折と、それを乗り越えての覚悟である。師を失い、同志の月照と入水するも、自分は助かる。自らを「土中の死骨」と恥じた。だが、その挫折が西郷を無私無欲にした◆葉室さん自身の叫びだったかもしれない。西郷が大久保に語る。「この世の中はほっとけば、どんどん暗くなる。たとえ命を失おうとも燈明になる者がおらんといけんのじゃ」。現代のリーダーにこそ求められる覚悟である。(也)

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