e若手芸術家を支える海外研修制度
- 2018.01.24
- エンターテイメント/情報
公明新聞:2018年1月24日(水)付
森下洋子さん(バレエ)、野村萬斎氏(狂言師)も利用
多彩な顔ぶれ、第一線で活躍
半世紀迎え都内で記念展示(3月4日まで)
文化庁が若手芸術家を海外に派遣し、専門分野の研修を支援する「新進芸術家海外研修制度(通称、在研)」は1967年度の開始から半世紀を迎えた。毎年、制度利用者が成果を発表する展示「DOMANI・明日展」を開催。今年は1月13日から3月4日まで国立新美術館(東京・六本木)で行われている。未来を担う芸術家の作品に触れてきた。
異文化に触れ表現を広げる
「マイナス20度という極寒の中、生活も厳しい過酷な環境で身体の限界を体験した。そのことを油絵で表現した」。2014年度から米国・ミシガン州のアナーバー市で活動した画家の増田佳江さんは在研での活動をこう振り返る。
在研は、美術、音楽、演劇、舞台美術や映画などを対象に、その専門分野について海外の大学や芸術家らの下で実践的に研修するための渡航費や滞在費を支援する。研修内容や旅程などを明記した書類を基に、文化庁内の審査会での選考を経て、支給される。期間は(1)1~3年(2)80日の特別期間(3)20~40日の短期期間(4)高校生(350日)――から選べる。
制度は、将来の日本の文化・芸術振興を担い、国際的に活躍する人材を育成することを目的に1967年度から「芸術家在外研修」との名称で始まった。初年度の派遣は4人。次第に対象分野や人数が拡大し、2002年度に現在の名称に変更された。16年度までに約3400人を支援し、ヴェネチア・ビエンナーレなど国際美術展で活躍する芸術家らを輩出している。これまでの研修出身者の中には、プリマバレリーナの森下洋子さんや狂言師の野村萬斎氏、映画監督の崔洋一氏ら多彩な顔ぶれが並んでいる。
90超す個性的な作品
出品した若手芸術家たち=同DOMANI・明日展は1998年度から実施しており、今年で20回目の節目(DOMANIはイタリア語で「明日」)。在研の制度開始50年と併せた記念展示として、13日から3月4日まで開催されている。観覧料は一般1000円、大学生500円、高校生や18歳未満は無料。
今回の展示は、「寄留者(パサジェ)の記憶」がテーマ。展示作品からは日本を離れ、異国の文化に触れた経験が浮かび上がるよう。展示の数は現代美術の絵画や彫刻、映像作品など90点を超える。在研を終えて5年以内の30、40代の男女11人の作家が出品しており、会場である国立新美術館は天井が高く、広々とした空間に作品が並んでいる。
水彩画などを出品している田中麻記子さんは在研でフランス・パリを拠点に活動した。田中さんは「日々の暮らしの中で目にする移民者や多国籍文化が作品のモチーフとなり、フランスに移ってから絵のスタイルは大きく変わった」と述べる。展示を鑑賞した20代の男性は「私も写真の世界で活躍することを夢見ている。今回、在研の制度を初めて知り、自分も活用したいと思った」と感想を語っていた。
文化庁の林洋子芸術文化調査官は「若手作家に1年以上の長期間、海外での研修制度を継続的に行っている国は稀だ。即効性を求めるのではなく、長期的に人材を育む制度だと認識している」と述べ、2020年代以降の文化芸術を支える才能に期待を込めていた。
公明 担い手育成を推進
学校への巡回公演事業も
公明党は、新進芸術家海外研修制度をはじめ、将来の文化芸術の振興を担う芸術家育成に関する支援の充実を推進してきた。また、制度を利用した芸術家らの協力も得て、子どもたちが本物の文化芸術に触れる機会の拡大も積極的に後押ししている。
例えば、文化庁の「文化芸術による子供の育成事業」もその一つだ。同事業は全国の小・中学校や文化施設などで、一流の文化芸術団体による巡回公演や、学校へ芸術家を派遣する鑑賞・実技指導を実施。子どもたちは、日ごろ触れられない楽器の演奏体験などを通して文化芸術を身近に感じており、好評を博している。同庁によると、巡回公演と派遣事業の合計実施件数は、16年度で4526件で、比較が可能な02年度の約7倍に拡大。18年度予算案では、17年度より予算額を増額している。