e福祉施設にスプリンクラー
- 2018.02.09
- 情勢/解説
公明新聞:2018年2月9日(金)付
義務化で普及95%に
初期消火や避難時、効果を発揮
認知症高齢者が暮らすグループホームなど小規模福祉施設に対し、公明党の推進でスプリンクラーの設置が義務化され、防火対策が大きく改善している。一方、生活に困窮する高齢者らの受け皿として事実上、無届けの老人ホームになっている共同住宅も多く、その防火対策が課題として浮かび上がっている。
補助金も拡充
認知症の高齢者は、火災が発生しても自力で避難することが難しい。しかし、スプリンクラーがあれば、初期消火や避難までの時間稼ぎに効果を発揮する。
この十数年の間にスプリンクラーが未設置のグループホームで、犠牲者が出る火災が相次いだ。事態を重く見た国は、スプリンクラー改修費用の助成を拡充するなど対策を段階的に強化。2015年4月の消防法施行令の改正で、これまで免除されていた275平方メートル未満の小規模福祉施設についても、18年3月末までにスプリンクラーを設置するよう義務付けた。
その結果、総務省消防庁によれば、小規模福祉施設のスプリンクラー設置率は13年2月時点の31%から17年6月時点で65%にまで上昇。さらに未設置の施設の多くも整備の意向を示しており、猶予期限の今年3月末までに設置率は95%に達する見込みだ。
「これほど設置率が高くなるのは、義務化の措置だけでなく、福祉事業者や行政関係者の努力の成果だ。補助金の後押しも大きい」と話すのは、火災安全対策に詳しい東京理科大学総合研究院の小林恭一教授だ。
小林教授によれば、01年~09年の福祉施設火災でスプリンクラーが作動した90件のうち80件は完全に消火。残り10件もボヤ程度でおさまったという。「スプリンクラーにより、ほとんどの火災をコントロール(制御)できるのではないか」との見解を示す。
なお、3月以降、未整備の施設に対しても総務省消防庁予防課は「違反には、各消防本部でしっかり指導するよう働き掛けていく。設置率100%へ押し上げていきたい」と語る。
長崎市では部局横断の会議開く
スプリンクラーの設置に加え、防火対策を強化するため部局横断的な取り組みを進める自治体もある。
長崎市は、建築指導課、高齢者すこやか支援課、障害福祉課など関係する11課が参加する対策会議を1月29日に開催。通所施設も含む市内1927の福祉施設の情報を共有するとともに、対応を協議した。
市消防局予防課は「関係部局と連携を緊密にし、市全体で福祉施設の防火対策に取り組んでいきたい」と話していた。
無届けホームや低額宿泊所の対策が課題
小規模福祉施設の防火対策が進む半面、実態として無届けの老人ホームや無料・低額宿泊所になっている共同住宅では、安全上の課題を抱えている施設が少なくない。
先月末、札幌市の自立支援関連施設「そしあるハイム」で発生した火災では、生活保護などを受けていた高齢者ら11人が犠牲となった。同施設は古い旅館を改築したもので、老人ホームや無料・低額宿泊所としての届け出はなく、民間のアパートと同じ扱い。火災報知器や消火器は置かれていたが、スプリンクラーの設置義務はなかった。
経済的な事情から福祉施設や一般の賃貸住宅などに入所できない高齢者を受け入れている類似の施設は全国に多数あると見られており、安全管理体制の強化が急がれる。
政府は居住支援の強化を盛り込んだ生活困窮者自立支援法等改正案を、今国会に提出する予定。これまで法的な規制がなかった無料・低額宿泊所に対し防火も含めた基準を設ける方針だ。公明党の井上義久幹事長も2日の記者会見で「法案が実態に即して、十分に機能が発揮できるか議論していきたい」と述べている。
困窮者の居住調査急げ
兵庫県立大学防災教育研究センター長 室﨑益輝氏
小規模福祉施設のスプリンクラー設置率が95%にまで改善される見込みとなったことは大きな前進であり、高く評価できる。さらに非常時に住民の応援を得られるよう、小規模福祉施設と地域住民との協力関係づくりも普段から進めていくことが望ましい。
一方、無届けの老人ホームと見られる共同住宅などは、行き場のない高齢者を受け入れているものの、大半は老朽施設で、防火設備は十分でない。ひとたび、火災が起これば、大惨事につながりかねない。
国や自治体も、このような施設がどれだけあり、どのような人が入居しているのか、実態は掌握しきれていないのが現状だろう。超高齢社会に伴い、単身高齢者も急増していることから、調査が急がれる。
人の命に関わる問題である。行政は高齢者が安心して入居できる受け皿を整備しつつ、スプリンクラー改修費用の助成など、何らかの支援ができないか、検討してもらいたい。