eコラム「北斗七星」
- 2018.02.15
- 情勢/社会
公明新聞:2018年2月15日(木)付
「公害病の原点」と言われる水俣病を告発した『苦海浄土』で知られ、先日亡くなった石牟礼道子さんに35年前、お会いしたことがある。本紙の水俣病連載の取材で。言葉を選び語る、物静かで穏やかな方だった◆この連載では、さまざまなことを経験した。寝た切りの患者を抱える漁村のあるお宅では、なみなみと焼酎が注がれた湯飲みが出てきた。それを飲み干すと初めて本音で語ってくれた◆水俣病被害者の会合が開かれた小さな集会場では、会合を終え帰途につく一婦人から突然声を掛けられた。「記者さん、私たちのことをしっかり伝えて」と。そうした場面を昨日のことのように思い出す◆訃報に接し、石牟礼さんが、水俣病を起こしたチッソは「誠心誠意の謝罪の気持ちと罪を償う気持ちが低い。日本人のモラルを低下させたお手本」と厳しく批判していたことを思い出した(2008.8・18付朝日新聞)◆石牟礼さんは「患者さんは今からも苦しんでゆかれるのに」と言い、「水俣は日本の近代化のマイナスを引き受けたんですよ。それを日本人に忘れてほしくない」と訴えていた◆同じ記事の彼女の次の言葉が忘れられない。「人さま方の苦しみをわかる人が増えてほしい」。水俣病が、わが身、わが地域の出来事だったら......そんな想像力を持ちたい。(六)