e耐震化率アップへ お宅訪問

  • 2018.03.02
  • 生活/生活情報

公明新聞:2018年3月2日(金)付



補助制度 説明し啓発



全国の住宅耐震化率は約82%(2013年)にとどまっている。耐震改修を促そうと、自治体の職員や建築関係者らが連携し住宅所有者へ直接出向いて説明する戸別訪問事業が注目されている。成果を上げる横浜市の取り組みなどを紹介する。



16万戸で実施 木造住宅の改修増


横浜市


「家の所有者と一度でも会えたことが、耐震改修を考えてもらう契機になったのではないか」と語るのは、横浜市内で注文住宅やリフォームを手掛ける株式会社・大船住研の畠山圭造代表取締役だ。

同社は、市が昨年2月から10月まで行った耐震化を促す戸別訪問事業に協力。耐震性が低いとみられる8000戸の家々を従業員20人で訪ね歩き、耐震診断・改修の必要性を説明したり、市の改修補助制度(限度額105万円)などを紹介したチラシを配布した。市の規定により訪問時は同社の営利行為・宣伝はしなかった。

不在やインターホン越しでしか話せない家庭が多かったが、チラシを受け取った高齢男性から「補助金制度があるなら耐震工事をしたい」と後日、同社が改修の依頼を受けたケースもあったという。畠山氏は「戸別訪問を機に耐震診断や改修の相談が何件も寄せられている。地震から命を守る家を増やすお手伝いができ、やりがいを感じている」と語る。

同市の戸別訪問事業は、登記簿情報などを基に耐震性の低い木造住宅16万戸を抽出。その住宅へ、市職員をはじめ委託を受けた人材派遣会社のスタッフ、市と協定を結んだ建築業者90社の従業員が足を運んで行われた。市議会公明党もこの事業を推進してきた。

壁に筋交いを入れたり、柱を金物などで補強する耐震改修は、全国平均で238万円と多額の費用がかかるため、市は国の補助も活用し、耐震診断・改修補助制度を設けている。しかし、補助制度の申請は15年度、16年度とも21件にすぎなかった。費用の問題だけでなく、そもそも補助制度の存在を知らなかったり、防災への関心が低いことなども影響しているとみられる。

そこで市は17年度、補助限度額を30万円引き上げて105万円にした上で、所有者に直接、耐震化の理解を促す戸別訪問を実施。こうした後押しにより、今年度は既に101件(2月23日時点)の改修費補助の申請が出され、大幅な増加をみせている。

市建築防災課は「今後も、地域の自治会や町内会とも連携して耐震化を啓発していきたい」と語った。


佐賀県は「耐震伝道師」を派遣


佐賀県でも昨年10月から住宅耐震化に詳しい建築士らを「耐震伝道師」として養成し、県内の市町が行う戸別訪問や耐震セミナーなどに派遣している。

耐震伝道師には、講習を受けた建築士約130人が登録され、住宅所有者への説明や相談を行う。昨年11月は佐賀市内の50戸を訪問。3月には佐賀、唐津の両市でも戸別訪問を行う予定だ。

県建築住宅課は「これまで新聞広告やチラシを配布しても、耐震診断・改修の補助制度の利用は少なかった。耐震伝道師によるセミナーや訪問で申請が増えており、直接、声を届けていく効果は大きい」と話していた。


国の18年度予算案


自治体への支援拡充、住民手続きも簡素化


住宅耐震化を促す戸別訪問は静岡県や高知県などでも活発に行われており、国も自治体を積極的に後押ししている。

国土交通省は16年度補正予算で、戸別訪問による啓発などに取り組む自治体を対象に、耐震改修費用の補助金を拡充(17年度までの措置)。横浜市も、この補助を受けて耐震化を進めている。

さらに国交省は18年度予算案で、新たな耐震改修の支援メニューを盛り込み、強化する。

現行の耐震化の補助制度は、耐震設計や改修工事の工程ごとに住宅所有者が自治体に申請する必要があり、事務負担が重くなりがちだ。新たな支援制度は、一連の費用を一括して1戸当たり100万円を補助(工事費の8割を限度)するもので、手続きが簡素化され、使いやすくなる。

国交省は、25年に耐震性が不十分な住宅をおおむね解消するとの目標を掲げている。同省市街地建築課は「大地震で住宅が倒壊すれば住民の命にかかわるだけでなく、復旧・復興の大きな妨げともなる。地道な取り組みを積み重ねていく中で耐震化率を底上げしていきたい」と強調していた。

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