e待機児童解消へ 潜在保育士の再就職支援
- 2018.03.08
- 情勢/経済
公明新聞:2018年3月8日(木)付
保育所などの待機児童を解消するには、施設整備とともに保育士の確保が欠かせない。そこで国や自治体が注目しているのが、資格を取得しても保育所で働かなかったり、結婚や出産などを機に離職した「潜在保育士」だ。再就職支援に先行して取り組む東京都や、国の対策を紹介する。
相談員が仕事先を紹介
東京都 3年で400人超復帰
東京都西東京市に住む平井明日香さん(27)は、2016年8月に保育士として復帰した。都が配置したコーディネーター(相談員)の支援を受けて再就職した一人だ。
九州出身の平井さんは、地元の保育所で約5年間勤めた後、結婚を機に都内へ転居。「保育士の資格を生かして、もう一度働きたい」と考え、16年5月に都内のハローワークを訪ねた。そこで都のコーディネーターから紹介されたのが、同市内のマナマナ保育室(吉岡里香代表)だった。
初めての見学会で「とても居心地がよく、ここで働きたい」と感じた平井さんは、面接試験を受け、パートとして働き出し、17年10月からは正社員として勤務する。平井さんは「慣れない土地で不安もあったが、コーディネーターの丁寧な対応でスムーズに再就職できた」と話す。
都保育支援課によると、平井さんのようにコーディネーターの支援を受けて再就職した人は、直近3年間(14~16年度)で411人に上る。
潜在保育士の職場復帰は、保育施設側にとってもメリットがある。吉岡代表は「経験者は即戦力になり、保育の質の維持につながる」と語る。また、都の事業について同代表は「求人広告の費用もかからず、私たちのような小規模施設はありがたい」と話す。
研修会や職場体験も
都内への子育て世帯の転入が増える中、都は潜在保育士の掘り起こしや求人・求職のマッチング(引き合わせ)に、いち早く取り組んできた。都議会公明党も推進し、都は09年度から保育人材確保事業を開始。コーディネーターは、その一環として配置された。
都は現在、コーディネーターの配置のほか、都内各所で最新の保育事情に関する研修会や就職相談会を開いたり、離職からのブランクが長い人向けのセミナーや職場体験も実施している。
都は18年度、約1500億円を投じて人材確保など待機児童対策に取り組む方針。保育支援課の柳橋祥人課長は「復帰した保育士が継続して働けるよう支援したい」と語った。
国が対策 処遇改善、着実に前進
厚生労働省によると、保育士数(常勤換算)は年々増え続け、16年は43.9万人となった。パートなどの非常勤を含めると54万人が働くが、保育士不足は解消されていない。しかし、保育士登録者数は140万人に上るため、86万人もの潜在保育士がいると見られる。
潜在保育士が就労しない大きな要因として、賃金や労働時間など待遇面の問題がある。政府は、13年度から賃金アップに取り組んでおり、これまでに約10%の賃上げを行ってきた。17年度からは、勤続年数に応じて月額最大4万円を上乗せしている。
政府の取り組みが後押しとなり、17年の保育士の平均年収は342万円まで伸びてきた。ただ、全産業の平均年収491万円と比べると低い状況にある。このため、東京都や岡山市、千葉県松戸市など、独自に賃金を上乗せする制度を設ける自治体も出てきた。
こうした現状を踏まえ、政府はさらに、20年度末までに待機児童の解消をめざす「子育て安心プラン」に取り組む。処遇改善などを通じて新たに約7万7000人の保育士を確保し、約32万人分の保育の受け皿をつくる方針だ。
公明党は、安心して子どもを預けられる環境をつくるため、16年3月、党内に待機児童対策推進プロジェクトチームを設置。政府への緊急提言などを通して、受け皿拡大や保育士の処遇改善に取り組んでいる。
保育問題に詳しい東京家政大学の増田まゆみ教授は「専門性の高い保育士への評価が低い点が問題だ」と指摘。その上で、「東京都や国などの賃金面の対策で、処遇は着実に改善されてきているので、継続した取り組みに期待する」と話した。