eコラム「北斗七星」

  • 2018.04.24
  • 情勢/社会

公明新聞:2018年4月24日(火)付



先輩に引き連れられ、真新しいスーツ姿の新人社員たちが街をゆく。この季節になるたび思い出すのは、亡き母の言葉。大学に進学して上京する際、「やっぱり行くのか?」。何をいまさらと思った。4年後、職を得た報告をすると、「こっちには、もう帰ってこないんだろうな」と言った◆兄たちもすでにふるさとを離れていた。「子どもは家を出るもの」と普段から言っていた気丈な母から漏れたつぶやき。初めて気弱な姿を見る思いがした。以来、声だけでもと、用もないのに電話をかけた◆不動産情報サービスのアットホームが、東京で働く長男を持つ40歳以上の男女(首都圏以外)に聞いたところ、3分の2が「地元に戻ってくることを諦めている」と答えた。もっとも、9割は戻るのが「長男でなくてもよい」としている。しかし、実のところは5割近くが「戻ってきてほしい」と思っている◆その思いを、遠回しにでも言ったことがあるのは、2割に過ぎない。なかなか口にできないもどかしさと諦めが交錯する。そんな胸の内がうかがえる◆社会人生活は始まったばかり。気を配る余裕もないかもしれない。でも、ふるさとの親の思いはどうか。親を、なかなか減らないオレオレ詐欺の被害者にしないためにも、まず一度、電話をしてはいかがだろう。(繁)

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