e読書のバリアフリー
- 2018.05.01
- 情勢/解説
公明新聞:2018年4月28日(土)付
障がい者向けの本の複製 柔軟に
誰もが等しく「知」と出会える環境を整備する契機にしたい。
視覚障がい者をはじめとする身体障がい者が書籍などの著作物を利用しやすくすることをめざす「マラケシュ条約」の締結が、25日の参院本会議で承認された。
同条約は、国連の世界知的所有権機関(WIPO)が提唱したもので、2016年に発効した。著作権の権利制限に例外を設けて、点字や音声読み上げ図書など障がい者が利用しやすい様式への複製を認めることが最大の柱である。併せて、複製物を国境を越えて共有できる国際的な協力体制の構築もめざしている。
国際NGOの世界盲人連合(WBU)によると、世界中で毎年出版される書籍のうち、視覚障がい者らが利用しやすい様式の書籍が占める割合は、先進的に取り組む国で7%、発展途上国に至っては1%にすぎない。
こうした現状は"本の飢餓"とも指摘されており、健常者との間で情報格差が拡大する要因ともなっている。改善を急がなければならない。
まずは、現在35カ国にとどまっている締約国を増やす必要があろう。とりわけ、全世界で約3億人に上る視覚障がい者のうち9割が住んでいる途上国への働き掛けを強める必要がある。
日本では、公明党の推進により「文字・活字文化振興法」が05年に制定され、弱視の人が読みやすい大活字本や、音声読み上げ図書などの普及が進められている。こうした取り組みを途上国に伝えることも重要ではないか。
忘れてならないことは、マラケシュ条約が求めているように、視覚障がい者以外の身体障がい者に対する取り組みである。
日本の著作権法では既に、視覚障がい者向けの複製物の作成は著作権者の許諾が不要と定められている。しかし、音声読み上げ図書を例に挙げると、本を持ったりページをめくることが難しい障がい者向けの図書は対象外だ。
このため政府は、著作権者の許諾を受ける必要がある範囲を見直し、著作物を柔軟に利用できるようにするための著作権法改正案を今国会に提出している。読書環境のバリアフリー化を一層進めたい。