e政党論から見た 「100万人運動」

  • 2018.05.15
  • 情勢/テクノロジー

2018年5月15日



国際医療福祉大学 川上和久教授に聞く



公明党は現在、全議員が地域に入り、「子育て」「介護」「中小企業」「防災・減災」の4テーマでアンケートを行う「100万人訪問・調査」運動を活発に展開中だ。この取り組みの意義について、民主主義や政党論の視点から、国際医療福祉大学の川上和久教授に聞いた。


民主主義の一翼担う


"御用聞き"の取り組み評価


――政党が今回のような運動を行うことについて、率直な感想を。


川上和久・国際医療福祉大学教授 まず、政党とは地域の"御用聞き"であると考えている。政党や政治家は、有権者が政策について何を感じ、そこにどういう修正点があるのかを捉えていく必要がある。この努力なくして、民主主義政治は成り立たない。

そのために、政党はマスコミの世論調査や内閣・政党の支持率をチェックすることがあろう。だが、それ以上に重視したいのは、自分たちが行っている、あるいは行おうとしている政策について、有権者が実際にどう思っているかを"皮膚感覚"で知ることだ。その意味で、インターネットの時代にあっても、政治家が一軒一軒、足を運び、一人一人の声に耳を傾けることから政治を始めなければいけない。

今回の訪問・調査運動は、民主主義の一翼を担う運動であり、政党としての原点である。こうした地域の御用聞きをしない政党は、政党の名に値しない。公明党が今回の運動を打ち出し、積極的に進めているのは高く評価できる。


――政党にとって、どんなメリットがありますか。


川上 現場のニーズをつかみ、新たな政策につなげていくという効果はもちろん大きい。その上で、今回のような運動を繰り返して行うことで、政党組織の足腰が鍛えられる点に注目したい。

地域に飛び込み、さまざまな声を集めて、政策に反映する。近代社会において、政党は本来そのような存在であり、そうした活動を通じて発展してきた経緯がある。党のネットワークや組織を拡大することにもつながる。

ここで大事なのは、声を聞きっ放しで終わらせないことだ。聞いた意見を政党が咀嚼し、どうすれば有権者に還元できるか知恵を絞る中で、政党としての情報発信力や、内外のネットワーク、組織のガバナンス(統治)力を強化していくことができる。今回の運動は、絶好のチャンスといえよう。


大衆迎合に抗する活動


語り合いが政治への信頼に


――政党や政治家に対する信頼の回復という視点からどう見ますか。


川上
 重要なキーワードとなるのが、世界を席巻するポピュリズム(大衆迎合主義)である。国民の不安をあおり、相手を激しく攻撃することで社会の分断を生み、国民受けする公約を掲げて支持を集める。このポピュリズムにあらがう闘争に地道に取り組まないと、民主主義は破壊されてしまう。

ポピュリズムであおる人は、いつの時代にも必ず現れる。古代ギリシャ時代からそうだ。わが国でも、戦前の二大政党制において、相手を追い落とすために互いにポピュリズムを駆使した。その結果、国民の間に政党不信を招いて軍国主義が台頭し、戦争への道を歩んでしまった。

だからこそ、政治家が有権者と一対一で向き合い、語り合う今回の運動が大切なのだ。それが、民主主義という政治の根っこを育てるとともに、民主主義の土台となる政党・政治家への信頼回復につながる。


――政府の不祥事や疑惑が連日のように報道されています。


川上 もちろん、野党が政権を厳しく追及することが重要なのは言うまでもない。ただ、「いま大事なことはそれだけか」と疑問を抱いている有権者も少なくないであろう。その証拠に、あれだけ政権を攻撃しても、野党の支持率は上がらない。

また、選挙の時だけポピュリズムで盛り上がり、特定の政党や政治家を支持するということがないようにするのが、健全な民主主義にとって望ましい。

政治にとって重要なのは、どこまでも現実と向き合い、政策を練り上げること。この点についての理解者を広げるための活動が、今回の運動であり、理解者が有権者の中で1割増えるだけでも、政治は大きく変わるはずだ。


地方議会でも成果反映を


――有権者の政治参加を促す面も期待できます。


川上 有権者が政策決定に関わる意義は大きい。有権者が政党・政治家に訴えた意見や要望が、どれだけ実現しているのか。その結果を評価していく社会をつくっていく効果がある。選挙の時だけ支援を依頼し、普段は何もやらない政治家は淘汰されるだろう。


――国はもちろん、地方自治体の政策立案にも運動の調査結果を生かしたい。


川上 公明党には多くの地方議員がいる。9月議会などで結果を基に働き掛けてもらい、2019年度の予算に生かしてほしい。

日本の地方議会は、条例制定権があるものの、どうしても行政のチェック機能に偏りがちだ。議員が主体的に行政をリードしていく意味で、調査結果を生かし、地域の実情に応じた具体策を提言するなど自治体へ働き掛けをお願いしたい。

3000人の地方議員が国会議員と連携してダイナミックに動く。その姿を機関紙や党ホームページなど通じて有権者にアピールしてほしい。


かわかみ・かずひさ


東京大学大学院社会学研究科修了。明治学院大学教授などを経て、現職。専門は政治心理学・コミュニケーション論。1957年生まれ。

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