eコラム「北斗七星」
- 2018.07.18
- 情勢/社会
2018年7月18日
高倉健のはまり役に『鉄道員』(浅田次郎原作)の乙松駅長がある。娘の遺体が駅に帰った時も、乙松は普段通り手旗を振った。定年を前に、雪のホームで警笛をくわえて息を引き取る◆JR日田駅(大分県日田市)に森山益行駅長(57)を訪ね、乙松と重ねた。日田で生まれ、国鉄マンの父と同じ道へ。昨年の九州北部豪雨は古里の駅長に就任した矢先だった。鉄橋が流され、列車は隣駅での折り返し運転に。高齢者が戸惑わないか、高校生は授業に遅れないか......。駅長はこの1年、代行バスに乗る乗客の案内を続けてきた◆14日、久大線(福岡・久留米―大分)が全線復旧し、特急列車が乗り入れた。今年の豪雨被害を思うと手放しで喜べないが、「元に戻っていく日田の姿を通し、少しでも元気づけたい」と◆東日本大震災、熊本地震、豪雨とここ数年、他人の身に涙することが多かった中で起きた、恥ずべき事件である。私大支援事業を巡り受託収賄で逮捕された文部科学省の前局長が「自分には権限がなかった」と容疑を否認しているという。職人気質とまでは言わずとも、職務への誇りぐらいあっただろう◆妻の死に目に駆け付けなかった乙松が、同僚の妻につぶやく。「俺ァ、ポッポヤだから、身内のことで泣くわけいかんしょ」。父よ、心して聞くがいい。(也)