eコラム「北斗七星」
- 2018.08.13
- 情勢/社会
2018年8月11日
すべてが津波で流され、小高い丘と松の木だけが残った街の上には、ただ美しい空と雲が広がっている。先日、仙台市内で開催された「新海誠展」で見た一枚のスケッチに釘付けになった。アニメ映画「君の名は。」の新海誠監督が、東日本大震災直後に宮城県名取市の閖上・日和山を訪れ、描いたものだ◆同地区では、700を超える人が犠牲となった。新海監督は「自分があの日ここにいたら」「自分が閖上にいたあなただったら」との思いを抱いて"入れ替わり"の物語を作ることを着想したという◆「君の名は。」では、東京の男子高校生の瀧と飛騨の女子高校生の三葉が、夢の中で、時間を超えて体が入れ替わる。彗星の衝突によって、当たり前の日常が突然、奪い去られるシーンでは、3.11の大震災を思い起こさざるを得なかった◆作品の中で瀧が「消えた糸守町・全記録」を眺めて「今はもうない町の風景になぜこれほど心を締め付けられるのだろう」とつぶやく。そのセリフと、震災前の面影を失った東北の被災地が重なった◆震災の爪痕は消えつつある。復興が進んでも<沢山の人達の命が今もここにある事を忘れないでください>との声を胸に刻みたい。津波で閖上中学1年の長男を亡くした丹野祐子さんの言葉である。きょうはあの日から7年5カ月。(川)